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2009年05月02日

千の風になって-新井満

「千の風になって」 新井満

千の風になって最近天気がいいですね。春がもうやってきていたんですね。季節はいつのまにかやってきますよね。それもこれも目に見えない風が運んでくるからなのかもしれないですね。

最近転職した職場が「映画 耳をすませば」の記事にも書いた初デートで歩いたコースのすぐそばなんです。転職してから仕事帰りに気持ちよい風に誘われて毎日この近くを歩いているのですけどいろいろと思い出してしますね。

さて今更ですけど「千の風になって」新井満の作品です。あの紅白でも歌われた歌ですね。それの元になった英語詩と、新井満の訳した日本語詩が素敵な写真とともに載っています。

風を写真にとるっていうのって難しいですよね。風に揺らされる木々や風に乗って飛ぶ鳥を写真におさめたとしても、厳密に言えばそれは風そのものをとったことにはならないですものね。でもきっと人間には想像力が備わっているからこそ、その写真を見て体に感じる風を思えるのかもしれないですね。

詩の内容自体はもう有名なのでここには書きませんが、人が死ぬということは、残した人間にその人をいつまでも思い出させることを強制することなのかもしれないですね。
葬式という残された人間にとっての通過儀礼はあるけれど、気持ちを和らげ、日常生活を送れるようになるようにはなっても、やっぱり完全に忘れることはできないですものね。

でも写真を見て風を感じられる想像力があるように、人間は未来を見ることができるからこそ、過去も思い出すことができるのでしょうね。
過去しか見ないで未来に対してポジティブになれない僕みたいな人間もいるのですけどね。
そんなんじゃだめだめ。まずは連休という現実を楽しむことにしますかね。




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2009年04月29日

ようちゃんの夜-前川梓

「ようちゃんの夜」 前川梓

ようちゃんの夜おはようございます。

世の中はゴールデンウイークですね。みなさんはどれだけ大型連休をとれるのでしょうか。僕も来週はお休みをもらえるみたいです。ありがたいことです。
そんなゴールデンウイークの空気にやられちゃったのでしょうか。今日見た夢はひどいものでした。高速道路を疾走する僕。突然横転して高速道路脇のグラウンド二面はあろうかという空き地まで他の車を巻き込みながらごろごろと転がる僕の車。それをきっかけとして次々と玉突き事故を起こす高速道路上。僕は無傷でいつのまにかベッドの上で寝ているシーンに変わる。自分が起こしてしまった事故に震えながら。
パッと目を覚ましても細部や事故を起こしてしまったときの気持ちがリアルに感じられて、ここはどこで、あれから何時間経ったんだろう、なんて思っていました。時計をみたり、携帯電話を確認したりして、自分が今どこにいるのか何度も確認しようとしているのだけれどうまくいかない。
車を確認しに行こう、なんて思ったときにやっと気づきました。夢の中でみた車は僕が過去に乗っていたもので、今の車とは違うということに。この文章を書きながら未だに怖い気持ちでいっぱいです。安全運転で行きましょうね。

さて、「ようちゃんの夜」前川梓です。初見の作家さんでした。ダヴィンチ文学賞第一回大賞受賞作だそうです。
高校生の私とようちゃん。一年生の時から知っていたけど、二年生になってからようちゃんと私の関係は変わってしまった。他の子といるときには見せない顔を私の前でだけするようちゃん。
屋上から空に飛んでいこうとするようちゃん。毎月一回定期的に更新する遺書を書いていると打ちあけるようちゃん。そんな二人の交流が描かれています。

仲のよい二人が距離を近くとりすぎてしまって逆にぎくしゃくとした関係になってしまうことってありますよね。女の子同士をみていると、それでも会っていないときには全然関係のない二人となってうまくバランスをとっているなぁって感心させられます。僕だったらどうしてあんなに普段仲よくしているのにそこで関係ない、なんて思えるのだろうって考えちゃうんですけどね。

文章自体は悪くはないのだけれど、きれいに書こうとしすぎているのか所々ついていけなくなってしまった今回の作品。まるで夢の中を歩いているときのように、細部をつかもうとすると指の間からすり抜けていってしまった。

結局ようちゃんは何者で私は何者だったのだろうか。僕は私ではないってことなのかもしれないだけですけどね。

車に乗る方たち。くれぐれも安全運転をお願いしますね。




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2009年04月25日

短い夜の出来事 奇妙で愉快なショートショート集-江坂遊

「短い夜の出来事 奇妙で愉快なショートショート集」 江坂遊

短い夜の出来事 奇妙で愉快なショートショート集こんにちは。

ご無沙汰してしまいました。
新しいことを始めると時間が経つのがあっという間ですね。いつのまにか一週間が経っていてびっくりです。でも仕事をしている間はまだ一時間も経たないなぁ、なんて思っていたりするんですけどね。どうしてこう時間は伸び縮みするんでしょうかね。

さて、そんな風にあっという間に時間が経っても切り取られた短い間に読めるショートショート集ってのはいいですよね。江坂遊の「短い夜の出来事」です。

なんと47編ものショートショートが収録されているのですけど、一編一編は短いものだけど、詰まっているって感じですね。フルーツ盛り合わせ。そんな感じですかね。甘いものは苦手だけどおいしいものは大歓迎ですからね。

"幻視力発電"なんてタイトルだけでおもしろいでしょ。
"マッチ"の
「いかがですか、過去を燃やしてしまうマッチは?」
「いらないね。それより未来を照らしてくれるマッチないかな?」

なんてうまいこと言っているのでしょうかね。ってかこれだけで一つの作品っていうのがびっくりですよね。

未来を照らすマッチ、どっかに売っていないですかね。自分自身の過去歩いてきた道ですら迷い迷いだったのに、未来なんてもっとわからないですものね。まぁわからないなりにも歩いていかなければならないんですけどね。




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2009年04月14日

きみが見つける物語 十代のための新名作 放課後編-浅田次郎 石田衣良 橋本紡 星新一 宮部みゆき

「きみが見つける物語 十代のための新名作 放課後編」 浅田次郎 石田衣良 橋本紡 星新一 宮部みゆき

きみが見つける物語 十代のための新名作 放課後編おはようございます。

昨日は新職場、初日でした。前の晩は緊張でうまく眠れず、遠足の前の日の小学生みたいになっていました。仕事は前職と同じなので、なんの心配もないのですが、やっぱり人間関係が気になりますよね。最初こそうまくやらないとなんていつもいらぬ心配ばかりしてしまいます。自然なのが一番のはずなのに考えすぎて失敗してしまうんですよね。

さて今日はアンソロジーです。「きみが見つける物語 放課後編」です。友情編やらスクール編やら恋愛編やら休日編やらシリーズでいろんなのが出版されています。十代のためのって銘打たれているだけあって名作がそろっているみたいです。

本書「放課後編」では、星新一、浅田次郎などなど文章のうまい作家さんが揃っていて読書に引きずり込むのにいい編集なのではないでしょうかね。ただ納得いかないのが、ショートショートの星新一以外は長編の一部分を抜き出しているようになっているのです。つまり、この本を読んだだけでは物語の全貌がつかめない。国語の試験のように一部分だけを抜き出して「おもしろいでしょ?」って押しつけているようにしか思えないのが不満です。小説はやっぱり、最初から最後まで読んで初めて作家が言いたいことがわかるのだと思うし、最初の文から最後の文の言葉、どれをとっても作家が一生懸命探してジグソーパズルにあてはめるようにカチッとはめこまれたピースなのだと思う。こういう編集の仕方は納得いかないな。まぁ出版社側としてはこれを入り口に本が売れてくれればいいな、ってことなのかもしれないですけどね。

僕にとってこの本を読んでびっくりだったのは、石田衣良の代表作「池袋ウエストゲートパーク」を読めたこと。こういう物語だったんですね。でもやっぱりドラマ版の長瀬智也のイメージが強くてすっきりと入り込めなかったのですけどね。といってもドラマ版も観ていないのですけどね。

まぁ、学生の頃は本なんか読まずに友人と遊び回っていた方が健全なのかもしれないですけどね。それでも時間があまってしょうがないってなって初めて本を開けばいいのではないかしら。本を読む時間なんて、おじさんになったらいっぱいつくれますとも。




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2009年04月12日

アンダー・マイ・サム-伊藤たかみ

「アンダー・マイ・サム」 伊藤たかみ

アンダー・マイ・サムこんにちは。

落ち込んだりもしたけれど、わたしは元気です。
失職した日から、みなさんにはご心配、ご迷惑をおかけしました。でもやっと次の職場を見つけることができました。渡り鳥のようにいくつも職を変わっているのですけど、そろそろ羽を休められる場所になるとうれしいな。
明日から出勤なのですけど、不安なのはやっぱり新しいところだからでしょうね。もうこんな気持ちを味わいたくないな。

さて、伊藤たかみ「アンダー・マイ・サム」です。「八月の路上に捨てる」で芥川賞をとった伊藤たかみですが、この「アンダー・マイ・サム」はそれよりも5年前、まだ児童文学を書いていた頃の作品です。この前に読んだ「夫婦茶碗」の人を酔わせる文章の影響なのか、僕自身の問題なのか、久しぶりに一冊の本を読むのに一週間かかってしまいました。文章が全然映像として浮かび上がってこないのでストーリーに集中することができず、2-3ページ読むとすぐに本を閉じるということを繰り返してしまいました。

人よりも親指が長い僕。突然、自分が自分の体から「外れる」ことを経験してしまう。それからちょくちょく「外れる」ようになってしまった僕。その長い親指はメールを早く打つことぐらいにしか使えなかったのに、「外れ」ているときに人の体に触れるとその人の悲しみがわかることに気づいた。顔に傷を負っているみゆき、家族を傷つけてしまうことに恐れる清春などの友人との交流が描かれています。

先日友人と飲むために渋谷に行ったのですけど、無精ひげを生やした僕をみてその友人は、人は外見で99%判断されるのだからちゃんとしてきなさい、と言われてしまいました。外見で判断するような人間に判断されたくない、なんて言い返したら、だから奇妙な人間しか周りに集まらないんだよ、と言われてしまいました。

たしかに外見で判断する部分は大きいですよね。親指が人より長い僕。過剰歯を持つ清春。顔に傷をもつみゆき。他人がなんと言おうとその部分をもつ人間にしかわからないこともある。

でもそれが自分も思っていないようなことに使えることに気づいたとき。それが人間の成長でもあるのかしらね。

僕も新しいところに行って、新しい自分の魅力に気付けるようにならないとね。魅力があればいいのだけれど。



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2009年04月06日

夫婦茶碗-町田康

「夫婦茶碗」 町田康

夫婦茶碗こんばんは。
先日観た料理番組で、イチゴと鶏肉の焼き鳥が紹介されていました。串にさして、一緒に焼いて肉が焼き上がったらバルサミコをかけるそうです。イチゴは焼いても甘ったるくならず、甘酸っぱくさわやかな味を楽しめるとのこと。誰が最初にイチゴを焼き鳥にして食べようなんて思いついたのでしょうかね。

さて、町田康「夫婦茶碗」です。「くっすん大黒」以来の町田康です。相変わらずパンクというか、人を酔わせる文章です。

車酔いしたときみたいに、ちょっと降ろしてって気分になるのですけど、すぐにまた作品に戻りたくなるのですけど、それがやはり町田康の文才なのでしょうかね。

"夫婦茶碗"と"人間の屑"の二作が収録されています。

"夫婦茶碗"の方は何をしても長続きしない男が茶碗ウォッシャーなんて新しい商売を初めてみるのだけれど、宣伝方法もめちゃくちゃ、商売を甘くみて、結局一日でやめてしまう。それでもご飯を食べていかなければならない。質草に家中のものを集めてみると妻の持ち物にやけに金がかかっているものが多い。ポルノ映画を観てみるとなんと妻がでているじゃないか。そうやって金を稼いでいたのか、と最近外出が多く、けんかして家出をしてしまった妻を疑い始める。
そして妻から電話がかかってきたけど、彼女のいたところはなんと病院。

そんな勘違いと妄想が渦巻く作品です。イチゴと焼き鳥を最初に焼いてみようと思うのはこういう男なのかもしれないけれど、それをちゃんと商売に出来るかどうかは別の話なのでしょうね。

"人間の屑"の方もそれと似たり寄ったりのひどい男が主人公。劇をやったりロックバンドをやってつくった借金を払えずに逃げ回る男。田舎に引きこもっていると、訪ねてきた東京時代のファンだという女の子と懇ろになって彼女を頼って東京に舞い戻り孕ませてしまう。しかしそんなもの逃げるが勝ちって感じで逃げて、彼女の友達の所へ転がり込んで、二人で東京を離れる。
二人で商売を初めてみるけどうまくいかなくなるのが怖くなり、さらに悪い方向へ動いていく。

結局何をやってもうまくいかない男が描かれている。反省はするのだけれどそれが何にも生かされていない。駄目な男が楽をするために逃げて、ますますダメになっていく物語になっている。「堕ちろ」で有名な「堕落論」だけれど、「堕落論」は堕ちていくことで成長を促していた。でもこの作品は堕ちていくだけでどこへも行かない。これが本当の人間の姿なのかもしれないけれど。

どちらもダメ人間が描かれていたけれど、リストラされて、就活がうまくいかなくて、家でごろごろしている最近の僕には耳が痛いというか、ここまで転げ落ちてしまいそうで怖い作品でした。ここで動けばこの作品の男のようにはならないのだろうけどね。そこがダメ人間とそうじゃない人間の分かれ道なのでしょうね。



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2009年04月04日

風に舞いあがるビニールシート-森絵都

「風に舞いあがるビニールシート」 森絵都

風に舞いあがるビニールシートこんにちは。
桜がきれいですねぇ。近所の桜並木を車で走ってきたのですけど、風に舞う花びらがきれいでthe春!って感じで顔が自然とにやけてしまいます。やはり今週にしておけばよかったんですね。来年はもっと綿密な調査をしてから日程を決定するべきなのかもしれないですね。

さて、森絵都「風に舞いあがるビニールシート」。短編集です。6編の短編が収録されています。

おいしいケーキを焼くヒロミ。弥生は彼女にふりまわされっぱなし。しかしその理由だけでふりまわされるのは十分だった。そんな弥生の大切なものを描いた"器を探して"。

30を過ぎて場末のスナックで働くことになった恵利子。彼女がそこで働く理由は「犬」のためだった。殺処分される犬を一匹でも多く救いたい。そんな恵利子を描いた"犬の散歩"。

30を過ぎて大学に入り、しかし仕事が忙しくて単位を落としてしまう。そんな大学生の祐介が助けを求めたのはレポート代筆をしてくれるニシナミユキだった。しかし彼女は彼の頼みを聞き入れてくれようとしない。そんな物語の"守護神"。

通販のパンフレットを制作している野田はある日、載せていた商品が誇大広告であるとお客さんからクレームを受ける。その客先に一緒に向かうことになったのは商品を制作している玩具メーカーの若い営業。車に乗るや否や携帯を取り出し、いろんなところにかけまくっている。静かになったと思ったら寝てしまう。そんな世代のギャップを感じていると、彼の電話の内容が気になってくる。昔の夢を思い出してしまった野田がした行動は、ってお話の"ジェネレーションX"。

そんな感じの6編が収録されています。自分の大切なものとどう向き合うかそんなことを教えてくれる短編集だと思います。

表題作も国連の難民高等弁務官事務所で知り合い、そのまま結婚してしまった里佳の旦那はフィールドが仕事場の専門職員のエド。彼の職場は電話も手紙も届かないような過酷な場所。そんな彼を求めてしまうあまり離婚してしまった二人。そして離婚後にアフガニスタンから届いた彼の訃報を聞いた里佳の物語です。

難民キャンプでは人々は風に舞うビニールシートのように軽々と飛ばされていく。誰かが彼らを助けなければならない。それを自らの使命にしてしまったエド。しかし里佳も二人の生活を支えるパートナーが欲しい。そうやって二人の葛藤が続いていきます。

使命感に燃えている人とつきあっていくのは確かに大変で、自らの生活も一緒になってやっていきたいと思う里佳の気持ちもわかるけど、そういう人を好きになってしまったのだからあきらめなさい、とも簡単には言えない。

自分の大切なものをいかに人と共有すればいいのか、そんな難しさがわかる作品でした。そして最後に里佳を慰めるために事務所のみんなが彼女にサプライズパーティーを開きます。それがどんなものかは読んでのお楽しみです。この季節にぴったしですよ。

里佳が共有できなかったものと引き替え桜の美しさは誰とでも共有できるからいいですよね。来年のお花見が楽しみです。



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posted by kbb at 16:01 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(0) | 森絵都

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