「風に舞いあがるビニールシート」 森絵都

こんにちは。
桜がきれいですねぇ。近所の桜並木を車で走ってきたのですけど、風に舞う花びらがきれいでthe春!って感じで顔が自然とにやけてしまいます。やはり今週にしておけばよかったんですね。来年はもっと綿密な調査をしてから日程を決定するべきなのかもしれないですね。
さて、森絵都「風に舞いあがるビニールシート」。短編集です。6編の短編が収録されています。
おいしいケーキを焼くヒロミ。弥生は彼女にふりまわされっぱなし。しかしその理由だけでふりまわされるのは十分だった。そんな弥生の大切なものを描いた"器を探して"。
30を過ぎて場末のスナックで働くことになった恵利子。彼女がそこで働く理由は「犬」のためだった。殺処分される犬を一匹でも多く救いたい。そんな恵利子を描いた"犬の散歩"。
30を過ぎて大学に入り、しかし仕事が忙しくて単位を落としてしまう。そんな大学生の祐介が助けを求めたのはレポート代筆をしてくれるニシナミユキだった。しかし彼女は彼の頼みを聞き入れてくれようとしない。そんな物語の"守護神"。
通販のパンフレットを制作している野田はある日、載せていた商品が誇大広告であるとお客さんからクレームを受ける。その客先に一緒に向かうことになったのは商品を制作している玩具メーカーの若い営業。車に乗るや否や携帯を取り出し、いろんなところにかけまくっている。静かになったと思ったら寝てしまう。そんな世代のギャップを感じていると、彼の電話の内容が気になってくる。昔の夢を思い出してしまった野田がした行動は、ってお話の"ジェネレーションX"。
そんな感じの6編が収録されています。自分の大切なものとどう向き合うかそんなことを教えてくれる短編集だと思います。
表題作も国連の難民高等弁務官事務所で知り合い、そのまま結婚してしまった里佳の旦那はフィールドが仕事場の専門職員のエド。彼の職場は電話も手紙も届かないような過酷な場所。そんな彼を求めてしまうあまり離婚してしまった二人。そして離婚後にアフガニスタンから届いた彼の訃報を聞いた里佳の物語です。
難民キャンプでは人々は風に舞うビニールシートのように軽々と飛ばされていく。誰かが彼らを助けなければならない。それを自らの使命にしてしまったエド。しかし里佳も二人の生活を支えるパートナーが欲しい。そうやって二人の葛藤が続いていきます。
使命感に燃えている人とつきあっていくのは確かに大変で、自らの生活も一緒になってやっていきたいと思う里佳の気持ちもわかるけど、そういう人を好きになってしまったのだからあきらめなさい、とも簡単には言えない。
自分の大切なものをいかに人と共有すればいいのか、そんな難しさがわかる作品でした。そして最後に里佳を慰めるために事務所のみんなが彼女にサプライズパーティーを開きます。それがどんなものかは読んでのお楽しみです。この季節にぴったしですよ。
里佳が共有できなかったものと引き替え桜の美しさは誰とでも共有できるからいいですよね。来年のお花見が楽しみです。
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posted by kbb at 16:01
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