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2005年12月14日

PAY DAY!!!-山田詠美

「PAY DAY!!!」 山田詠美

pay day.jpg双子の兄妹の物語。911の同時多発テロによる彼らの母親の死と彼らの成長を描いた青春小説。山田詠美の本はこれが初めてだったのだが、こんなに文章が読みやすいとは知らなかった。ストーリーも無駄なところがなく、必要なものが必要なだけ入っていてグライス(P.Grice)の格率を思い出してしまいました。(なんだろそれ?って興味を持った方はこちらを。わかりやすい説明があります。

物語は、まだまだ子供っぽいところのある17歳の双子の兄妹が両親の離婚や別居、周りの人間との関わり、恋愛、失恋、そして同時多発テロによる母親の行方不明によって成長していく姿が描かれている。それと同時に誰もが大切なものを亡くしたときにはいつでも成長、変化する可能性のあることも描かれている。アル中のおじさんや彼らの父親でさえ大切な人を亡くして変化していく。

同時多発テロによって母親が行方不明になると、周りのクラスメートや友人のそれに対する反応と自分が感じていることとのギャップを感じる兄妹の姿が描かれている。人を亡くすのはいつだって突然で暴力的であり、それは社会的に衝撃を与えたテロとはまた違った感情を残された人に与える。周りの人は怒りを犯人に向ければいいが、怒りを向けたところで大切な人は戻ってこないことを残された人は知っているのだから。

解剖学個人授業の中に養老孟司が「一人称の死体、二人称の死体、三人称の死体」について考えている部分がある。彼は死体としては三人称の死体しか存在しないと主張する。一人称の死体、つまり自分の死体は自分が死んだ時点で死体を認識できないのだからそれは存在し得ない。二人称の死体、つまり自分にとって親しい人や親子兄弟の死体はそれを人は死体として客観的印象を持ち得ない。「誰かが心に思い浮かべる限りその人は生きている」と誰かが言っていたが、それも二人称の死体が客観的に意識しづらいところからくる言葉だろうと思う。それを客観的、意識的に再確認させるのが葬式というセレモニーなのかと思う。

多くの人にとって同時多発テロは三人称の死体をたくさん生み出した忌むべき犯罪であったわけだが、遺族にとってはたった一つまたは少数の二人称の死体を生み出した行為にすぎない。そこで違った種類の感情が起こるのだと思う。

しかし、山田詠美は大切な人の死ですら、人が成長するためのきっかけの一つでしかなく、その他たくさんのきっかけと同じことなんだよと優しく話しかけてくれている気がして、誤解を恐れずに言えばずいぶん救われた気がした。

タイトルの「PY DAY」が何を象徴しているのか読みながら考えていたのだけれど、結局明確な答えのでないまま読み終えてしまった。途中で

「しあわせの条件は酒と女と給料日。...そして家族にちょっとだけ心配されていれば言うことなし」

というセリフがでてくるのだけれど、それでもイマイチわからない。こんなんかなぁって思ったのは、いつだって大切な人を亡くすのは暴力的に突然の出来事なのだから、今月もまだ大丈夫だったっていう節目が「PAY DAY」なのかな。

最後に作中にでてきた言葉を一つご紹介。

「人は誓いをたてる時には神を必要とするけど、それを破る時には弁護士を必要とするものだ」


posted by kbb at 13:22 | Comment(0) | TrackBack(3) | 山田詠美
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