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2009年03月26日

ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶-大崎善生

「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」 大崎善生

ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶こんばんは。

毎朝、毎朝どこから湧いてくるのかって思うほどたくさんの人が電車に乗っていますよね。恋人同士のベッドの上。海外から久しぶりに帰ってきた友人と抱き合う空港。どちらも距離が0になることは親密感を表しているのに、満員電車で隣の人と距離が0になると腹がたつのは不思議なことですよね。そこで腹をたてずに知らない人とでも仲良くなれれば戦争なんかなくなるのかもしれないですね。

さて、大崎善生「ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶」です。四編の作品が収められている短編集です。

パイロットフィッシュにつながりそうな熱帯魚がキーワードの物語"ドイツイエロー"。"九月の四分の一"につながる物語"キャトルセプタンブル"。初めて会ったその日の夜を共にして、二度と会わなかった男の話をいつまでも信じ続けた女の子吉岡礼子の物語"いつかマヨール広場で"。可憐な「かれん」という自分の名前がいつまでも好きになれなかった女の子が自分の名前の秘密をしる物語"容認できない海に、やがて君は沈む"。

大崎善生の描く男女は、例えセックスを共にしても、所詮は他人でしかない、どこかしら距離があるということがしっかりと描かれているように思う。そして完璧に、半分でしかないけれど、他人ではないのは親子。そういう存在である人間をしっかりと描いているのが大崎善生の物語ではないかしら、とこれを読んで強く思いました。

満員電車に乗っていても、まわりにいるのは他人。だからあんなに不快にかんじてしまうのでしょうね。恋人や仲のいい友人との抱擁のときの安心感でさえ一瞬だけの勘違いかもしれない。でもその勘違いを忘れないようにすれば人は孤独で居続けることはないのではないかしら、なんてたまには楽観的なことでも言っておきましょうかね。




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2008年09月16日

編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人々-大崎善生

「編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人びと」 大崎善生

編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人びとこんばんは。

三連休も終わっちゃいますねぇ。ずっと休みが続けばいいのに、なんて学生みたいなこと言っていますけど、そうは問屋が卸してくれないですね。明日のために寝なきゃなんて思いつつ、これから本でも開こうか、なんて訳の分からないことを考えています。早く起きて朝にでも読めばいいのにね。

さて、こんな人が会社にいたら休みなんかなくなっていいから、毎日でも会社にいたいと思わせてくれるような人が描かれている「編集者T君の謎」です。小説もノンフィクションもどちらもはずれのない大崎善生のエッセイです。

週刊現代に連載したものを収録したようですが、「聖の青春」「ドナウよ、静かに流れよ」「パイロットフィッシュ」が書かれた頃のようですね。

さてタイトルにもある編集者T君ですが、将棋連盟内の大崎善生が勤めていた雑誌の編集部員です。大崎善生が編集長の時に無理矢理押し込んで採用したようですが彼がなかなか強者なのでおもしろいです。今まで読んだ本はたった一冊だけ。「人間失格」しか読んだことがない。面接で大崎善生が形だけでも面接しようかと、今まで読んで心に残っている一冊は?と聞いたのですけど、二冊目を聞かれていたら答えられなかったと、後に語っているそうです。

本を読んでいないから当然ものを知らない。言葉を知らない。イタリアの首都をローマだと答える大崎善生に向かって、やっぱり編集長はなんでも知っている、と言ってみたり、もぬけの殻を腑抜けの殻と言ってみたり。彼が隣の机にいたらきっと飽きないんでしょうねぇ。

さて本書は決してT君の冒険譚ではなくて、大崎善生が「ドナウよ、静かに流れよ」で遭遇したヨーロッパでの出来事やはまっているパチスロのことなんかも書いてあって時間を忘れて読み進められます。一つが6ページぐらいしかないので、二、三駅で読み終われちゃうってのもいい感じですね。

さてさて、いつまでもお酒を飲んだり、本を読んだりしながら現実逃避をしていてもしょうがないですね。明日のためにも早く寝ないとね。体を休めることも仕事の一つだよ、と本書にもでてくる昔働いていた将棋会館そばのモスバーガーのオーナーに大昔に教わったのに、すっかり忘れているみたいです。
ではみなさん、よい夢を。おやすみなさい。




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2008年02月04日

ドナウよ、静かに流れよ-大崎善生

「ドナウよ、静かに流れよ」 大崎善生

ドナウよ、静かに流れよ雪ふりましたね。今日は立春だっていうのに、朝から昨日の雪が凍ってなんども滑りそうになって、駅に着くまでにいつもの倍かかってしまいました。受験シーズンでみんな無事に試験をうけられたかしらって心配になっちゃいました。

冬になると、足もとの石畳が凍ってもっと大変だろうなって思える国、ルーマニア、オーストリアが舞台の作品、「ドナウよ、静かに流れよ」です。久しぶりに大崎善生の小説を読もうかと思って開いてみたら実在の人や場所がいっぱいでてくるものだから、いつになったら物語が始まるのかしらって心配になって帯をみたら、ノンフィクションって書いてあって、一瞬止まってしまいました。小説読みたかったのになぁ、なんて思っていたんですけど、それは事実は小説よりも奇なりってのがこのノンフィクションのテーマだったのかもしれないですね。

以前「将棋の子」でも書きましたが、大崎善生はノンフィクションを書いていてもフィクションのように感じてしまいますね。彼にとってそれはいいことなんでしょうか、悪いことなんでしょうか。

今回のノンフィクションの題材は「聖の青春」や「将棋の子」と違って、若いカップルの心中事件です。ある日、ふとみかけた新聞のベタ記事から始まるのですけど、一つずつ糸で繋がっているかのように大崎善生のところにやってきます。

ウィーンで死んだ33歳の指揮者と19歳の女の子。どうして二人は死ななければならなかったのか。19歳の女の子、日実(かみ)は19歳にしてはむごたらしいぐらいにまわりに振り回されてしまいます。同級生の死、母親の性格や、父親の行動、恋人の言動。悲しいぐらいにすべてが日実の人生を終わりへと導いていきます。

しかし、ここに書かれていることは、大崎善生も言っているように、書き手にとっての事実でしかないのかもしれません。誰がどうやって伝えたとしても、それはその人にとっての事実でしかないのかもしれない。でも、僕らはそれを受け入れて、取捨選択して自分にとっての事実を構築していなかければならないんですよね。

大崎善生はこの事件を作品にしようと思ったときに、こう考えます。

書いてみたい、そう思った瞬間にノンフィクション作家は何らかの責任を負うことになる。書いてみたいという衝動を、一過性の衝動に終わらせずに最後の一行まで書き上げることができるかという自分自身への責任。もし書く行為によって何人かの人間や、それにまつわる色々なことが動き出したときに、それらのすべてに対して、自分なりの責任をまっとうできるかという疑問。


こういう事件に関する作品を読んだときに、読み手は勝手な想像をするかもしれない。勝手にあれこれいうかもしれない。誰が悪くて、誰がよかったとか。そんなことにまで責任をとらなければならないと考える大崎善生の態度にすばらしいものを感じた。そういう人が書くからこそ、読み手も自分で事実を構築するという責任を果たせるのかもしれないと感じました。

この痛ましい事件のときに彼はヨーロッパを旅し、アジアンタムの鉢植えを手に入れています。そうやって「アジアンタムブルー」が生まれたのかしらと思うと、日実があの素敵な作品の後ろに流れる冷めた感じを生み出していたのかもしれませんね。


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2007年12月31日

孤独か、それに等しいもの-大崎善生

「孤独か、それに等しいもの」 大崎善生 

孤独か、それに等しいもの こんにちは。今年もあと8時間足らずで終わりですね。どんな一年でしたか?僕にとってはぽっかりと穴があいていた一年って感じでしたね。やるべきこともやらず、やってはいけないことばっかりやっていて、反省し通しでした。反省だけなら猿でも出来るって言葉を痛感しますね。本だけはあいかわらずたくさん読んだんですけどね。

というわけで、今年最後の更新です。大好きな作家、大崎善生の作品です。大好きといっても、大崎善生の作品はこちらの精神状態によって開くかどうか悩まされるので好きと言えるかどうかって感じではあるんですけどね。

5編の短篇が収録されている短篇集です。今回は元編集者のちょっとかっこいい中年にさしかかった男性だけが主人公でないのが珍しいなって思っちゃいました。いっつもそんな男ばっかりでてくるので、最初の短篇を開いたときに主人公が若い女性だってわかって違和感を感じてしまったんですけどね。

"シンパシー"という短篇に弾をこめていない銃をつかってロシアンゲームをするシーンがでてくるんですけど、弾がはいっていないってわかっているのに、読んでいるだけで(*・o・*)ドキドキ(*・。・*)バクバクしちゃいました。こういうシーンを考えられるってすごいなぁって感心です。なかなか思い付かないですよね。

表題の"孤独か、それに等しいもの"もそうですし、「パイロットフィッシュ」の

     一度出会った人間と、一度発した言葉と、人は二度と別れることはできない。

という言葉でもそうでしたが、大崎善生はこういう、短い言葉にすべてをこめるのがうまいですね。彼の作品は弾が全部つまっているような銃のなかから一つずつ弾をとりだしていく作業のような気がします。そうやって一つずつの弾を物語の中からとりだしていきながら、最後に銃を取り出して磨き上げながら眺めて、その銃が心の奥深くにいつまでも残っていく、そんな読後感が彼の作品にはあるような気がします。

今回の作品は短篇集なので、弾を抜いていく作業が少し短かったので物足りなく感じてしまう部分もあるのですけどね。彼の作品は長編の方が満たしてくれますね。

というわけで、今年のエントリーはこれでおしまいです。一年といっても、途中穴があいていましたが、今年も一年ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします!

最後に今年の自分的ベスト3でしめようかと思いまする。

No.3 トールキン 「指輪物語 全10作」
長くて、途中であきらめそうになったけど、読んでいけばいくほど物語から離れられなくなりました。

No.2 瀬尾まいこ 「天国はまだ遠く」
がんばろうって思わせてくれる、素敵な物語でした。

No.1 枡野浩一 「ショートソング」
和歌と物語がうまく合わさっていて、さらに自分のよく行くところをなぞるようなストーリーが気に入りました。

では、来年もよい読書を〜。



posted by kbb at 16:05 | 東京 ☀ | Comment(0) | TrackBack(0) | 大崎善生

2006年04月25日

将棋の子-大崎善生

「将棋の子」 大崎善生

将棋の子おはようございます。「国破れて山河あり」とはいいますけど、夢が破れるとあとには何が残るのでしょうかね?

そんな夢破れた人たちのその後を描いた大崎善生の「将棋の子」です。将棋のプロになるためには将棋連盟が主催する奨励会というもので勝ち上がって四段にならないといけません。それには多いときで33人という人数でリーグ戦を行い上位二人にはいらないととならないのです。しかもそこには年齢制限がかかり、21歳までに初段、26歳までに四段にならないと強制的に退会させられてしまいます(年齢や制度は突然変わることもあるそうです)。

そんな風に年齢制限やその他の理由で奨励会を退会していった人たちのその後を追った大崎善生のノンフィクションです。将棋のことなんてまったく興味がないし、駒の動かし方ぐらいしか知らないのに、とっても楽しめましたよ。千駄ヶ谷で今働いているのですけど、日本将棋連盟の本部が千駄ヶ谷にあって、その地名がよく出てくるのもちゃんと風景を思い描けた原因でしょうね。僕の働いているところにも、この人将棋指しだろうなって人がたまに来ますから身近に思えたんでしょうね。

夢破れたあとってのは挫折や苦しみしか残らないかというとそうでもないようですね。ある人はその一時の苦しみから逃れるために全財産をギャンブルに使ってしまったり、ある人はなけなしのお金を持って南に旅をしたり、ある人は死にものぐるいで勉強して司法書士の資格をとったり。それぞれがそれぞれの方法で挫折を乗り越えていきます。

棋士というのは特殊な環境で育つもののようで、中学校すらまともに行かずにプロ棋士の内弟子になり十代のはじめの方から奨励会にはいり、一般の社会から遠く離れた生活を過ごします。そして26歳で強制退会となり突然社会に放り出されてしまうのです。それはとっても怖ろしいことだろうなと思いましたけど、みんなちゃんとその社会に順応していけるんだなってちょっと安心しました。

大崎善生の小説を読んだ時にこの人のノンフィクションは文章が透明過ぎるが故にノンフィクションとして感じられないのじゃないかしらって思って読んだのですけど、これはフィクションですって言われて読んだら小説として感じてしまうような作品でした。

この作品を読んでいて思ったのですけど、ノンフィクションだろうがフィクションだろうが、作品を通してその作者が自分自身を見つめ直すのが文章を書くってことなんでしょうね。この作品も奨励会という実在のものを通して作者自身が自分を見つめ直していく過程がよく描かれていました。

大崎善生は将棋雑誌の編集長をしていたようで、「パイロットフィッシュ」「アジアンタムブルー」の主人公が雑誌の編集をしていたのもそれが元なんでしょうね。

「聖の青春」の方がおもしろいよと友人に薦められているので今度はそっちですね。



posted by kbb at 13:09 | 東京 ☔ | Comment(0) | TrackBack(3) | 大崎善生

2006年04月05日

アジアンタムブルー-大崎善生

「アジアンタムブルー」 大崎善生

アジアンタムブルーおはようございます。今日は前置きなんて抜きにして作品の紹介を。

それぐらい今回のはよかった。よかったというより、号泣してしまいました。こんなに泣いたのは「博士の愛した数式」以来かも。

大崎善生の「アジアンタムブルー」です。最初の方はたんたんと物語がすすんでいくのですけど、途中から一気に泣かせてくれました。着ていたシャツがびしょびしょになるほど・・・。ここまで人を感動というか共感させてくれるなんてこの人ほんとにすごいんだなぁって実感してしまいました。最近自分でも友達に見せてるぐらいですけど、小説らしきものを書いているのですけど、この本を読むと自分のがいかにつまらないかって思えちゃって自信喪失気味です。僕にはここまで人を共感させるようなものは絶対書けないだろうなって思っちゃいました。

あらすじとしては、エロ本の編集者山崎はカメラマンの葉子と出会い、二人は恋に落ちていく。しかし、葉子は30なったばっかりだというのに、人生を終える。その終えるときに山崎には何ができるのか・・・って感じかしら。山崎や沢井、五十嵐など「パイロットフィッシュ」の続編のような感じです。僕はアジアンタム〜の方が話しとしては先なんじゃないかって思うんですけど、こっちの方が時間的にあとだって言う人もいるみたいですね、アマゾンのレビューを見る限りでは。

読み始めた時は

「男の子と女の子が街を歩くときは手ぐらいつなぐものでしょう」

という先輩のセリフや山崎は同棲を申し入れた時の葉子の断り方なんかを書きだそうと思っていたのですけど、そんなのもういらない、ってぐらい読後は呆然としてしまいましたね。

普段このブログでもずっと言ってるように、短編小説の方が好きでした。小説なんて言いたいことがあって、それが伝わればいいわけで、それを伝えるのにつらつらと言葉を並べるよりは上品に少ない言葉で確実に伝えられるのが作家の力量だと思っていたからです。でも今回「アジアンタムブルー」を読んで、長編もいいなぁって思ってしまいました。エピソードがいくつもいくつも重なり合って作品全体の雰囲気を作り出して、もうこれでもかってぐらい泣かせてくれる。うーん、今まで僕は何を読んでいたのでしょうかね、まったく。大崎善生がうまいってことなですかね。長編を読み終わって、無駄な時間を過ごしてしまったなって思うのが悔しいから短編に逃げていたのかもしれませんね。

葉子が死んでいく過程で、自分の母親の病室のことを思い出してしまい、それが涙となっていたのかもしれませんね。でも自分の彼女がこうやって死んでいくときは、僕も山崎と同じようにしてあげたいっておもっちゃいますね。

それを影からサポートしてくれる、山根先生がまた泣かせてくれるんですよね。世の中に本当にこんな医者いるんですかね。

隠す意味のないネタバレです。反転させてください。
(ここから)この本の裏表紙に書いてある、あらすじなんですけど、これって誰が書いているんでしょうかね。編集者かしら?これ、葉子が癌で死ぬことが書いてあるのですけど、そこが途中まで伏せられて初めて作品全体に通じている雰囲気が感じられると思うのですけど、どうなんでしょうかね。(ここまで)

大崎善生にはこれからも注目です。


posted by kbb at 05:49 | 東京 ☁ | Comment(2) | TrackBack(3) | 大崎善生

2006年02月22日

パイロットフィッシュ-大崎善生

「パイロットフィッシュ」 大崎善生

パイロットフィッシュ昨日、インドに旅立つ友人を成田空港まで送ってきました。見送られるのや迎えられるとうれしいので、時間があればそういうときはなるべく空港まで行くようにしているのですけど、なんだか空港から一人で帰るのって寂しいですね。おはようございます。そいつがおみやげをおいていってくれました。インフルエンザをうつされたようです。熱もあるし、腰もだるいし。まったくあいつってやつは・・・。

さてさて、今日のは「パイロットフィッシュ」です。友人に本屋さんでよく見るけど、どんなのなんだろうね?って聞かれたので、本屋さんで見つけて思わず買ってしまいました。その友人に言ってあげたい。是非買いなさいと。

パイロットフィッシュ。それは熱帯魚などの水槽を作るときに、水槽の中の生態系をつくりだすために最初にいれる魚のこと。いいパイロットフィッシュを最初に水槽にいれることができれば、その魚の排泄物からバクテリアなどが生み出され、水草や他の魚などと共にちょうどよい生態系がつくられる。バクテリアが適切な量になったときに、パイロットフィッシュは水槽から取り出され、その水槽にいれようと思っていたアロワナなどの環境の変化に弱い高級魚がいれられる。取り出されたパイロットフィッシュは、生きたままトイレに流されたり、アロワナに食べさせたりと無残にも殺される。

作品は山崎君の現在と過去が交錯しながらすすんでいく。19年ぶりの恋人だった由希子からの電話。

一度出会った人間と、一度発した言葉と、人は二度と別れることはできない。


誰が誰のパイロットフィッシュで誰が誰のパイロットフィッシュでなかったのか。誰が高級魚で誰が高級魚ではなかったのか。誰もが過去の誰かに影響を受けて、その影響から現在の自分は逃れることはできない。そういったことが、透明感のある、広がりのある文章で綴られていく。

この本を読みながら、つい最近友人と話したことを思い出していた。自分が昔してきた恋愛と最近していた、これからするであろう恋愛はどうしても違うものになりそうだと。その違いをそのときはうまく言葉にすることができなかった。でも、この本を読みながらなんとなく、その言葉を見つけられたような気がする。昔していた恋愛は、お互いがお互いを成長させるために、時にはぶつかりあい、摩擦をひきおこしていたのだけれど、それが成長のためであったからこそ決定的なものにはなりえなかった。だってお互いが変われるって信じられたのだもの。そんな子たちが隣で一緒に笑ってくれて、泣いてくれて、喜んでくれて、怒ってくれた。そして楽しんでくれた。

これからするであろう恋愛は、もうお互いの生態系ができあがった状態で出会う人達とするのだろう。自分の生態系も不完全ながらも完成しきってしまっているだろうから、ぶつかることもないかもしれない。あるとしてもそれは決定的な言い争いになってしまいそうな気がする。これがわかっていなかったから最近してきた恋愛はうまくいかなかったのかな。自分の中であの子までの恋愛とあの子からの恋愛に決定的な線がひけるのはそんな理由からなのかしらってやっと言葉を見つけられたような気がする。

大崎善生は元々ノンフィクション作家だったらしい。そんな彼の初の小説作品がこの「パイロットフィッシュ」だ。なんでもできる人ってすごいな。この人の文章だと、ノンフィクションを書いたとしても創作的な感じがしてしまうだろうなって思うとちょっと損だろうなとは思うけど。
posted by kbb at 06:52 | 東京 ☁ | Comment(0) | TrackBack(6) | 大崎善生

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