とりあえず韓国旅行中に読んだ本を紹介します。沢木耕太朗の新作です。この人は「深夜特急」からの大ファンで、バックパックの旅にあこがれてアメリカ一周グレイハウンドの旅をするなど、いろいろと影響を受けた人です。この人の描くフィクションも大好きですけど、それ以上に人の心理までうまく描き出しているノンフィクションも大好きです。スポーツものの作品が読んでいて映像が浮かんでくるようでとても楽しめます。
この本は山野井泰史夫妻の物語です。ノンフィクションでもあえて物語といってしまうほど、彼ら夫婦は人間離れしていて、読み終わった最初の感想は「こいつら人間じゃねぇ」っていうものでした。
山野井泰史と妙子は世界でもトップレベルのアルパインクライマーです。彼らは8千メートル級の山を単独もしくは少数のパーティーでノーマルコースではなく、それよりも難易度の高いバリエーションコースを通って頂まで目指す登山家です。
この作品では、彼らのギャチュンカン(ヒマラヤ山脈にある山の一つ)挑戦の様子が描かれています。
彼らの何がすごいって、山に対する態度が人間離れしているのです。彼らはこの挑戦の最中に、手足の指を凍傷におかされながら、頂を目指すのです。しかも難しいコースなので、極限状態(山野井は極限ではなく極限に近い状態と言っていますが、普通の人間にとっては極限状態といっていい状態です)の中で人がここまで冷静でいられるはずもないと思うのですが、かれらはパニックにならずにコースを見極め、壁を越えていきます。
彼らは結局、凍傷によって、指のほとんどを失うのですが、山野井は結局また山に魅せられてその後も登り続け、中国にある未登頂の壁の初登頂に成功します。
この作品は彼らが死と隣り合わせの状況がずっと続くのですが、下手なサスペンスや創作を読むよりよっぽど手に汗にぎります。「事実は小説より奇なり」とよく言いますが、「事実は小説よりおもしろい!」と叫んでしまうような物語でした。
よく登山家に「山になぜ登るのか?」と聞くと、「そこに山があるから」と答えると言いますが、彼らこそ、その答えを本気で言ってしまう二人だなと思いました。


